賃貸住宅の法定点検
賃貸マンションやアパートなどの共同住宅には、いろいろな設備がありたくさんの人が暮らしています。
居住者の生活の安全を確保するため、さまざまな法律により建物や設備の点検・報告が義務付けられています。
もし火災が発生してしまったとき、消火器が詰まってしまっていたり避難はしごが錆びついて開かなかったらどうなるでしょうか。毎日使う水道水が汚染されていて、集団食中毒が発生してしまったらどうなるでしょうか。エレベーターが誤作動を起こして、扉を開けたまま動き出したらどうなるでしょう。
建物の法定点検は、かつて起こったさまざまな事故や事件を教訓にして法改正が重ねられ、行うことが義務付けられている点検・報告項目です。
該当する建物の所有者はその責を全うしなければなりません。
しかし、建築基準法、消防法、水道法など法律も様々ですし、毎年なにかしらの法改正が行われます。
法律が違いますから関係する役所の窓口もバラバラで、自治体ごとに独自のルールを設けている場合もあります。
個人の大家さんがリアルタイムにすべてを把握するのはなかなか難しいのも実情ですから、一定規模以上の大型の建物である、または、高齢者や障がい者用の建物である、商業施設や飲食店が入店している、など少し特殊な物件を所有する大家さんは、ビルメンテナンスに強い管理会社に相談をした方がいいでしょう。
街の不動産屋さんや小さな仲介店の管理部門では荷が重いかもしれません。
もしなにか起こった時、知らなかったでは済みません。
責任を全うしていなかった大家さんはもちろん、適切な管理を行わなかった管理会社にも、刑事・民事の罪がかかる可能性があります。
賃貸住宅でよくある法定点検
建物の法定点検は、その規模や用途によって行う項目が定められています。
居住用の建物で該当することが多い項目は以下のようなものです(2017年5月現在)。
しかし、法律は毎年なにかしらかの改変が行われていますので、以下のこの項目や内容は今後変わる可能性があります。
また、各自治体ごとに独自の規制を加えている場合もありますので、正しい情報は各省庁、もしくは関係窓口に確認をする必要があります。「点検項目名+行政区」などで検索してみると、その地域のルールが公開されていることがあります。
特定建築物等定期報告 建築基準法第12条1項・3項/国土交通省
多くの人が利用する一定の用途・規模以上の建物は、老朽化や設備不良、災害などで事故が起きると人命や財産に多数の被害をおよぼすような大きな事態に発展しかねません。
そこでそのような「特定建築物」と呼ばれる規模の建物について、適切な維持管理が行われているかを定期的に報告する義務があります。
法に定められているものは、
- 建物自体を調査する「特定建築物定期調査」
- 換気や排気、非常灯、給排水を確認する「建築設備定期検査」
- エレベーターやエスカレーターの安全を確保する「昇降機等定期検査」
- 防火扉や防火シャッターなどの防火設備をみる「防火設備定期検査」
があります。
▶ 参考:建築基準法(国土交通省)に準拠する法定点検 ~ 特定建築物等定期報告
消防用設備等点検 消防法第17条の3の3/総務省
火災から生命や財産を守るため、建物には消火器や感知器などの消防用設備が設置されています。
いざというときに作動しなければ意味がありませんので、有事に確実に機能を発揮できるように常日頃から維持管理と定期的な点検を行い、その結果報告が義務づけられています。
▶ 参考:消防法(総務省)に準拠する法定点検 ~ 消防用設備等点検/防火管理制度
簡易専用水道検査 水道法第3条7項、第34条の2及び水道法施行規則第55条、第56条/厚生労働省
有効容量の合計が10㎥を超える貯水槽や高架水槽の設置者は、その管理について定期的に厚生労働大臣の登録を受けた者の検査を受けなければならないこととなっています。
▶ 参考:水回りに関連する法定点検 ~ 貯水槽/ブースターポンプ点検/浄化槽
小規模受水槽水道検査 各自治体の条例によって制定
有効容量の合計が10㎥を超えない貯水槽設備でも、各自治体ごとに定められた検査機関による検査を受けなければなりません。
▶ 参考:水回りに関連する法定点検 ~ 貯水槽/ブースターポンプ点検/浄化槽
直結増圧給水ポンプ点検 各自治体の条例によって制定
直結増圧給水ポンプ(ブースターポンプ)は、各自治体により定期点検を行うことが条例で定められています。
▶ 参考:水回りに関連する法定点検 ~ 貯水槽/ブースターポンプ点検/浄化槽
浄化槽の保守点検・清掃・定期水質検査 浄化槽法第7条、第9条、第10条、第11条/環境省
浄化槽の管理者は、適正な維持管理により浄化槽の処理性能が確保されているかどうかを判断するため、保守点検・清掃と併せて法定検査を受検しなければなりません。
▶ 参考:水回りに関連する法定点検 ~ 貯水槽/ブースターポンプ点検/浄化槽
賃貸住宅でまれにある法定点検
建物の規模や用途、所在地などによって、必要となる法定点検は異なります。
以下の法定点検は、よくある項目ではありませんが重要な項目です。建物管理が不得手な管理会社では見過ごす可能性がないとも限りません。よく確認しておきましょう。
建築物環境衛生管理基準
建築物衛生法によって定められています。建築物衛生法では建築物環境衛生管理基準に従って、衛生環境の維持管理・監督することが義務づけられています。
連結送水管耐圧性能点検
設置後一定期間を経過した「連結送水管」「屋内外消火栓等消防用ホース」はその機能に支障が無いかを確認し、消防署長等へ報告する事が消防法で義務付けられています。
専用水道定期水質検査
専用水道の設置者は、水質検査を実施し、水が水質基準に適合しているかを確認することが水道法第20条により定められています。
井戸水の水質検査
井戸水(飲用)の水質検査については、都道府県、政令市の条例により規制等があります。井戸水を利用しているエリアはまだ結構あります。
自家用電気工作物定期点検
電気事業法では、キュービクルおよびそれに付随する設備を良好な状態に維持するために、月次点検および年次点検が法令により義務付けられています。
法定点検は大家さんの義務です
上記以外にも、建物の規模や備え付けてある設備の種類などによって、必要となる法定点検があります。
新築した場合は設計事務所や建設会社からフィードバックがあると思いますが、中古で買う時は注意しましょう。
収益物件の購入者は消費者ではなく事業主ですから、聞かされていなかった法定点検項目があったとしても「知らなかった!騙された!」と、売買を仲介した不動産業者を攻めたてても責任は回避できません。
自分が所有する建物の規模と、必要になる法定点検の項目くらいは賃貸経営者としては当たり前に知っておくべき、もしくは事前にキチンと調査すべき事項です。
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この記事を書いた人
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地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。
【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他
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