大家さんが無知であることのリスク
賃貸経営をしている大家さんのまわりには、たくさんの協力業者や入居者などの利害関係者(ステークホルダー)がいます。
そんな皆さんが協力し、助けたり助けられたりしながら円滑な賃貸住宅運営を行っていきますが、大家さんが知らないことが多いと、いろんな場面で不都合や不利益が生じます。
最低限必要な知識は備えておいた方が、お互いにとってよいことが多いです。それぞれのステークホルダーごとに、どんな知識がリスク回避につながるのかを考えてみます。
入居者
入居者は顧客として、賃料を支払って部屋を使用収益します。
家賃を払っているという立場を拡大解釈して、常識の範疇を超えたクレームや理不尽な要求を行うなど、トラブルに発展してしまうことが稀にあります。
もしくは反対に、入居者の権利が守られるべき場面で、大家さん側が無理難題を押し通そうとしてしまうこともあります。
どちらの場合でも、借地借家法などの賃貸借契約の基本や、トラブルになりがちな敷金返還のルール、過去発生した賃貸借契約にまつわるトラブル事例や判例などをわかっていれば、泣き寝入りすることも不必要に揉めることもなくなります。
賃貸不動産経営管理士や宅建士などの資格の勉強を通して、大家さん自身の知識を深めるも良しですし、困ったときにすぐに相談できて、信頼でき、的確なアドバイスをくれる専門家(管理会社や弁護士など)と良好な関係を築いておくことも必要です。
▶ 参考:賃貸トラブルの基本
管理会社
管理会社とひとことに言っても、その力量はさまざまです。
建物に強い会社、客付けが得意な会社、言われたことはきちんとできる会社、先読みをしたアドバイスまでできる会社、自社で対応できる業務が多い会社、すべて下請け業者に丸投げの会社…。
毎月継続して仕事を任せる管理会社の選定を誤ると、賃貸経営に少なからぬ悪影響を及ぼします。
自分が何に困っていて、何を任せたいのかを明確にした上で、その課題を解決してくれる管理会社とタッグを組まなければ不満が募るばかりです。
本には正解は書いてありませんし、1回2回話を聞いただけ、短期間任せただけでは判断がむずかしいのが現状です。関係性を築きながらじっくり腰を据えて取り組みましょう。
▶ 参考:管理会社の選び方
賃貸仲介店
入居募集の最大のパートナーが仲介店です。
いくら家賃を値下げしても、キレイにリフォーム工事をしても、空室情報が仲介店に届いていなかったり、猛烈に嫌われていたりしたら、決めてくれません。
競合する他の物件よりも明らかに魅力的であるなど、競争力が高い物件であればそれほど募集で苦労をすることはないかもしれません。
しかし、いわゆる「普通」の物件であるのなら、
- 間違いのない募集資料を提供する
- すぐに使える写真や動画を提供する
- 案内しやすい環境を整える
- すぐに連絡がつくようにする
- ADなどの考慮をする
など、仲介店が動きやすく決めやすいようにできる限りの段取りをしておくことが大事です。
そのような関係性の中で、優先順位の高いえこひいきされる大家になれると楽になります。電話一本、FAX一枚送って、あとやっといて、では仲介店もいい気分はしません。
▶ 参考:賃貸仲介店の選び方
建設会社&サブリース会社
遊休地の土地活用や相続税対策でよく検討されるのが、サブリース付きのアパートやマンションの建築です。
数年前なら表面利回り10数%、昨今では8%前後で新築計画がされることが多いようです。
長期金利が0%を切るような昨今(2017年)、8%なんてとんでもなく魅力的な投資のように思えます。しかし、土地を含まない「建物のみ」の購入で、しかも30年を超えるような「長期借り入れ」を伴う投資が、本当に事業として成り立っているのかどうかはしっかりと確認しなければいけません。
ご自身で自信をもってチェックできないのであれば、第三者の専門家にお金を支払ってでも診断してもらった方がいいくらいです。その他の資産とのバランスなどを鑑みたうえで、投資すべきだという判断に至ることもあるかもしれませんが、単体の事業としては成り立っていないことも多いからです。
▶ 参考:工務店・ハウスメーカーの選び方
▶ 参考:サブリース会社の選び方
金融機関
不動産を買う時に、現金一括払いの方も稀にいらっしゃいますが、ほとんどの大家さんは金融機関から借り入れをします。
融資の審査基準としてよく言われるのは、
- その物件自体の事業性
- その物件自体の担保価値
- 借りる人の与信
です。
大家さんからしてみたら、銀行がこの物件には融資してもいいとOKしたのだから、事業として成り立つと判断されたのだろう、と思うでしょうが、銀行員は賃貸経営のプロではありませんから、本当にその事業計画に甘いところがないかどうかなんて、正確にはわかりません。
入居率や家賃の設定や修繕費用をちょっとイジれば、いくらでも見栄えのよい事業計画書は作れます。
数字のマジックでどうとでも見せることができるということです。
そうすると現実的には、物件そのものの担保価値と大家さん自体の資産背景に重点を置いた審査がなされていてもおかしくはありません。事業性の判断を金融機関に委ねてはいけません。投資判断は、大家さん自身ですべきです。
保険会社
災害や事故などの万が一の事態が発生した時に強い味方となるのが、保険会社です。
保険は大きく分けると、
- 生命保険(第一分野)
- 損害保険(第二分野)
- 医療保険(第三分野)
の3種類の保険がありますが、賃貸経営で重要になる保険は、損害保険の内の「火災保険(地震保険、その他特約含む)」です。
同じ損害保険の中でも「自動車保険」や、生命保険・医療保険は、ダイレクト型と言われる保険会社との直接契約が多いですが、火災保険は、全体の9割が代理店を経由した契約だと言われています。
なぜかというと、不動産を購入(建築)する際に関わる、不動産屋・建築会社・金融機関などがまとめて手配してくれるからなのですが、不動産の契約の陰に隠れていつの間にか加入しているため、内容がよくわかってない、ということはよくあります。
また、いざという時に保険会社との間をスムーズに取り持てる代理店かどうかも密かなポイントです。代理店の知識や経験には差があり、賃貸住宅の保険請求に通じたプロがいる店は多くはありません。
工事会社&リフォーム会社
最終的に現場で工事施工する会社には、それぞれの専門分野があります。
電気系統は電気工事屋さん、電機機器は電器屋さん、水道は水道工事屋さん、ガスはガス工事屋さん、クロスや床は内装工事屋さん、大工工事は大工さん…などです。
管理会社やリフォーム屋さんに全部まとめて発注していても、すべての職人を抱えて自社施工している会社はほとんどありません。自社でできない仕事は、知り合いの業者に再委託しています。
大家さんがチェックすべきなのは、自社でやらずに下請けに出しているなんてけしからん!という部分ではなくて、発注した会社が元請け会社としてしっかりと工事監理し、仕事を完遂しているかどうかです。
丸投げして放置、クレームの嵐、という事態だけは避けなくてはいけません。
▶ 参考:工事業者の選び方
▶ 参考:リフォーム会社の選び方
不動産売買仲介
所有する不動産を売ったり、新たな収益物件を買ったり、不動産を組み替えるときにお世話になるのが不動産売買の仲介業者です。
売買仲介をやっている業者にも得手不得手があります。
一般の人向けの住宅の取引が得意な会社は多いですが、賃貸マンションのような収益不動産が得意な業者は少ないです。実需不動産の値段の付け方と収益不動産の値段のつけ方は違いますし、物件や買主の探し方も違います。
不得手な事業者に売買仲介を頼むと、相場とかけ離れた価格で取引されてしまったり、成約までに時間がかかってしまったりします。
また、収益不動産の中でも、区分の物件が得意だったり、一棟モノが得意だったりすることもあります。不動産業者を選ぶ際には、自分の売りたい(買いたい)物件に強い会社を探しましょう。
士業
士業とは、弁護士・公認会計士・行政書士・弁理士など、「~士」と付く資格を持つ職業の俗称です。
賃貸経営で最もお世話になるのは「宅建士」でしょうか(宅建士が士業というくくりに入るかどうかは別にして)。その他、税理士や弁護士ともかかわる機会は少なくないはずです。
あとは状況によって、司法書士、土地家屋調査士、社会保険労務士、行政書士、不動産鑑定士などと関わったことがある大家さんは多いのではないでしょうか。
士業というと「先生」と呼ばれるくらいですから、何でも知ってるエキスパートというイメージがあり、変なことを聞いたり失礼なことをしてはいけないと思っている大家さんもたまにいらっしゃいます。
しかし、士業の先生にも、当然ながら得意分野と不得意分野があります。
個人(もしくは法人成りした家族経営)の賃貸経営に精通した士業は少ないです。
賃貸経営を全く知らない先生と話すと、会話がチグハグになってしまうこともありますから、このくらい知っているだろうと勝手に判断せず、自分の意図をしっかりと伝えられるよう丁寧に説明をしなくてはいけません。
コンサルタント
コンサルタントとは、顧客が抱えるなにかしらかの課題を解決するための方法を提供している人のことです。
経営コンサルタント、不動産コンサルタント、建築コンサルタント、相続コンサルタント…などなど、数えきれないほどの肩書があります。
コンサルタントはその道の(自称)プロですから、困った時の強い味方でもありますが、変なコンサルタントに当たると課題が解決できないばかりか、無駄なお金を使ってしまうことになりかねません。
コンサルタント自身が未熟で、そもそも課題を解決できる能力がないのは論外ですが、そうでない場合にチェックした方がいいな、と思う点は、そのコンサルタントがどこから収益を得ているか、です。
コンサルタントにとっては、お金を出してくれる人がお客様です。
大家さんがプロのサポートを得るために、自らお金を出しているのであれば、その対価に見合う成果を出すためにコンサルタントは一生懸命働いてくれます。しかし、タダでセミナーを開催していたり、相談に乗ってくれるコンサルタントもいます。
その方々は、困っている大家さんのために無償の愛を注ぐことが至上命題なのでしょうか。そんなわけはありません。
その後ろに販売したい商品や売り込みたいスポンサーがいるわけです。
タダで相談できてラッキー、と思っていたら、いつの間にか本当は必要のない商品を買わされていた、などということにならないように気をつけましょう。タダより高いものはありません。
その他
ステークホルダーは賃貸経営をサポートしてくれる事業者以外にも、従業員や株主のような事業に直接的に関連する人たちや、地域社会や行政のような間接的にかかわる人たちもいます。
個人や限られた身内で経営していることが多い大家さんは、従業員や株主などはあまり意識したことがないかもしれませんが、いつかくる相続や事業承継に備えて法人の設立や資産移転をしないといけないときには、少し考えなくてはいけない課題になります。
そして、賃貸経営は景観や役割といった点で、地域社会と密接した事業でもあります。建物はその街を形づくるピースのひとつですし、そこに人が住まうということは、経済活動が生まれることでもあります。地域の活力にもつながる社会的意義の大きな事業であることも意識しておかなくてはいけません。
▶ 参考:大家さんの仕事とは
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この記事を書いた人
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地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。
【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他
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