敷金(保証金)の基本とその取扱い

敷金とは、入居者の入居期間中に発生する可能性のある債務を担保するために、入居契約時に大家さんに預けるお金のことです。保証金という呼び名の地域もあります。

保証金という呼び名であっても、テナント物件や借地の保証金とは、少し意味合いが違います。あくまで、呼び名が違うだけの敷金であることが多いです。

 

入居期間中に発生する可能性のある債務は、例えば、

  • 家賃の未払い(滞納)
  • 入居者に故意や過失がある物件の破損・汚損

などの損害金です。

大家さんは、賃貸借契約が終了して部屋の返還を受けるまでの間に回収できなかった損害金があれば、敷金から差し引いて残りを入居者に返すことになります。

 

敷金ゼロ物件

入居者は契約時に、敷金として家賃の数ヶ月分(1~3ヶ月程度)を預けます。

ある程度まとまった金額ですので負担感があります。

入居を早く決めたい、競合物件よりも有利な条件で募集したいなど、大家さん側に理由があるときは敷金ゼロで募集をかけることもあります。

地域によっては、敷金ゼロが当たり前になりつつあるエリアもありますが、敷金はそもそも大家さんのリスクヘッジのためのお金です。

滞納が起きても大丈夫なように保証会社を利用したり、事故で損害を受けた際に困らないように火災保険にはしっかり入ってもらう(更新モレがよくある)など、リスクを回避する他の方法を考える必要があります。

 

保険(保証)対応できるような事故であればこの方法でいいのですが、課題は退去時の原状回復費用です。

たばこのヤニ部屋と化している、ペットの汚損・破損がひどいなど、明らかに入居者に過失が認められる場合の修繕費は入居者負担になりますので、請求することができます。

しかし「請求すること」ができても「回収すること」ができなければ意味がありません。

敷金ゼロ物件を選んだ元入居者はお金にあまり余裕がない人かもしれません。そして、大家さんの物件を退去したということは、また新しく別の物件を契約して引越したということでもあります。当然、新物件の入居のための初期費用を払っていますから、お金がない可能性があります。

分割払いでもなんでも回収できればいいですが、遠方に引っ越して音信不通になったりすると回収はかなり困難です。

管理会社は入居中の入居者の管理はやってくれますが、退去後の管理まではなかなか請け負ってくれません。

多くの退去者はキチンと清算してくれると思いますが、原状回復費用の算定に疑義があるなど、納得感がない場合は回収が難しくなる可能性が高まります。稀な事例かもしれませんが、起こり得ることだという想定は必要だと思います。

 

敷引き物件

退去時に敷金の内の一定額を返還しないことを定めた特約を、敷引き特約と言います。

「敷金3ヶ月、敷引2ヶ月」とすれば、敷金返還の義務は1ヶ月分だけということになります。

保証金の償却も同様の意味合いです。

「保証金3ヶ月、償却50%」では、1.5ヶ月分が返済分です。

 

敷引きは「敷金だけど返さなくていいお金」ですから、大家さんにとっては助かりますが、入居者側からみると不審なお金です。

敷引きや保証金の償却は、地域によってかなり慣習が違います

当たり前にあるものと思っている人がいる一方、そういう文化のない地域から引っ越してきた入居者とはトラブルになることもままあります。

敷引きの有効・無効は裁判でも長く争点とされていたところで、最高裁判決では「原則有効」という判例も出ています。

ただしこの有効はあくまでその事例では有効、という判決です。

賃料の額、礼金等の一時金の授受の有無等に照らして「敷引きの額が高過ぎる」と判断される場合には、特段の事情がない限り、消費者契約法10条により「無効」であると判断されることもあります。

しかし、実務的に言うと、裁判になるほどの紛争に発展してしまったら、勝とうが負けようが、かける時間と手間と心労と費用を考えると「実質負け」なような気がします。事業というよりは意地の世界です。

 

敷金の返還請求を受けたら

敷金の返還を請求されるということは、入居者自身が想定していた修繕費用よりも高額な清算を求められたと感じ、その金額に納得していないということです。

金額や見積りの内容自体もそうですが、退去立会者が理路整然と請求内容について説明していない、もしくは態度や言い方が横柄で気に入らない、などのヒューマンエラーが訴えの引き金になることもあります。

多くの人は揉めたくないですから、少々のことは我慢してしまいますが、訴えを起こせるほど行動的な入居者は、大体、ガイドラインの存在を知っています。

入居者は自分にとって都合のいいことしか主張してきませんので、ついつい大家さんもカチンときてしまうかもしれませんが、全面的に争ってもおそらくいいことはありません。

少額訴訟などに発展すると、大家さんは不利です。できるだけ速やかに、譲る部分と譲らない部分を探りつつ、落としどころに決着させた方がいいでしょう。

当事者同士での折衝は難易度が高めです。

交渉上手な管理会社が間に立ってくれるのが円滑な解決には欠かせませんが、その管理会社の対応自体がトラブルの原因になっている場合は、任せるほど揉めることがあります。そうなると、全額返還で決着せざるを得なかったり、弁護士などの第三者の介入が必要になってくることもあります。

 

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この記事を書いた人

管理人 いろは大家マニュアル Site administrator
地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。

【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他

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