空室のリスク① ~ 空室率の考え方
賃貸経営は、ブームがきてある日突然ドカンと儲かったり、ガツンと落ち込んだりすることはあまりない事業です。
部屋数が急激に拡大すれば別ですが、他の事業と比べると売り上げは安定的に推移します。
しかし、多くの大家さんは顧客である入居者との接点が薄く、入退去に関して主導権を握っていないことが多いです。
管理会社などに入居者管理を任せっきりにしていると、
「ある日突然、入居が決まる」
「ある日突然、退去が決まる」
ため、戦々恐々としてしまい、空室リスクに対して過剰に反応しがちです。
しかし、天災や事件・事故とは違い、空室のリスクはある程度、大家さん自身で管理・コントロールすることができます。運営努力で十分に回避することが可能なリスクです。
空室率の考え方
まずは、空室率の考え方について整理します。
あまり知られていませんが、空室率には・時点空室率・稼働空室率・賃料空室率という3つの計算方法があります。
1.時点空室率
一番ポピュラーで、一般的に使われているのが「時点空室率」です。
例えば、所有する10戸のアパートの内2戸が空室だったら、空室率20%です。
その時、その瞬間の空室率です。
もし明日1戸入居したら、明日は空室率10%です。立て続けに退去が出たら50%とかにもなります。月間通してずーーーっと50%でも、バタバタっと決まったら、その瞬間は100%です。
時点空室率は「今」はわかりますが、月間や年間などの期間を通して、いい状態なのか、悪い状態なのかがよくわかりません。
そこで活用するのが「稼働空室率」と「賃料空室率」です。
2.稼働空室率
稼働空室率は、年間通して「稼働しなかった日(月)数」で計算する空室率です。
例えば、所有する10戸のアパートの内、年間通して101号室が2ヶ月間空室、203号室が3ヶ月間空室だったとします。2部屋合わせて5ヶ月分空室という意味です。
10戸が100%稼働していたら、10戸×12ヶ月=120ヶ月ですが、そのうちの5ヶ月分が空室だったわけですから、5ヶ月/120ヶ月=4.16%。
年間通したこの物件の空室率は4.16%だということができるわけです。
悪くはない数字です。家賃を下げずにできるだけ速やかに決めるための方法を考えます。
これが、半年空室が3部屋あるよ、となると、(6ヶ月×3戸)/120ヶ月=空室率15%となります。
少し停滞気味です。ローンの返済比率が高いと不安になります。相場やニーズ調査をして、空室期間を短くする施策を考えなくてはいけません。
このように押しなべて俯瞰してみると、時点空室率ではわからなかった現状がわかりやすくなります。
3.賃料空室率
稼働空室率は、「部屋の稼働状況だけ」をみた空室率でした。
でも、賃貸経営は部屋が埋まってさえいればいいわけではないはずです。必要な収益が得られなくては意味がありません。
そこで見るのが「賃料空室率」です。
空室や家賃の値下げで、想定していた賃料が得られなかった場合の収入ベースの空室率です。
ちょっと極端な例になりますが、10戸のアパートを新築したとします。
6万円の家賃設定で、年間720万円の家賃収入がある事業計画です。
この収入をベースに支払い計画が立てられています。しかし竣工してみると、近隣に同じような新築が乱立していて、5.5万円まで値下げせざるを得ませんでした。
無事に満室にはなりましたが、年間家賃収入は5.5万円×10戸×12ヶ月=660万円。
なんと、想定していた家賃収入の91.6%しか入らないことになってしまいました。それはすなわち、満室なのに、常に8.4%の空室を抱えているのと同じことになります。
これが「賃料空室率」です。
賃貸経営は、新品で修繕もなく、入居者の質もいい新築時がいちばん楽に儲かるタイミングであるにもかかわらず、船出がこれでは先が不安になります。
既存の物件でも同じことが言えます。
早く決めたいという圧力が強くなると、安易な値下げをしてしまうことがあります。すると、収入と支出のバランスが崩れ、満室なのになんだか支払いが苦しい…などということになりかねないのです。
空気に部屋を貸していても1円にもならないから、という理由で家賃を下げて募集をすることはよくありますが、同時に支出を抑えるための施策を打ったり、次回募集時に値上げができるような対策をしたりといった工夫をしておかなくては収益性が低くなるだけです。
「今回は敢えてやる値下げ」ならいいのですが、「入居促進のための安易な値下げ」であるなら、よく考えて行う必要があります。
管理会社の営業パンフレットやチラシには、「管理物件入居率95%!」などと、大きく謳ってあることがよくあります。
しかし業者の出す空室率は、多くの場合で細かく調整された「時点空室率」です。
「賃料空室率」ではありません。全くのウソではありませんが、数字だけを過信しすぎるのもよくはないのです。
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この記事を書いた人
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地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。
【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他
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