建物の老朽化に伴うリスク
賃貸経営を長く行っていれば必ず直面するのが、建物の老朽化に伴って発生する事故や高額な修繕費用負担などのリスクです。
古くなった、壊れた、直す、だけで済めばいいのですが、場合によっては人命にかかわる事故が発生することもあり得ます。
どのようにリスクヘッジしておく必要があるのか、考えてみます。
経年劣化による出費は予測できる
建物が古くなれば、当然あちこちに不具合が出てきます。
室内であれば、エアコンが壊れた、給湯器が壊れた、床がきしむ、立てつけが悪い…など、入居者の生活に不便が出ます。
そして、建物自体や設備にも悪い部分が出てきます。
ポンプが壊れたら最悪断水しますし、貯水槽や配管が古くなると漏水の危険性が高まります。手摺りなどの鉄部が錆びると見た目がよくないのももちろんですが、ひどいと折れたり外れたりします。ネジなどの金物も劣化するとゆるんだり固まったりして、止めているものが落ちたり動かなくなったりします。タイルや瓦も古くなると、外れて落ちることがあります。
そうなると当然、修繕費用は増えます。
建物はある日突然古くなるものではないですから、経年劣化による修繕の費用は、現場の状況や耐用年数などを考慮すればある程度予測のつくものです。
しかし、その予測を疎かにすると、想定外の出費となりキャッシュフローに悪影響を及ぼします。
古い建物を所有しているということは、常に何かしらかの修繕リスクを内包しているということですから、突発的な修繕にも対処できる準備をしておくことが大事です。
老朽化最大のリスクは人身事故
想定の範囲内で起こる故障や修繕であれば、準備さえしておけば問題なく対処できると思いますが、まれに想定外の事故が起こるのも老朽化によるリスクの怖いところです。
ニュースでもよく報道されるのは、落下事故です。
例えば、2015年には新宿で築40年の雑居ビルの外壁タイルが縦75cm、横20cmにわたって剥がれ、7階の高さから歩道に落ちた事故がありました。また、札幌では30年前にビルの外壁に設置された金属製の看板が15m下の歩道に落ち、直撃を受けた女性が意識不明の重体となる事故も発生しています。
これほど大きな事故ではなくても、例えば外壁タイル1枚、ボルト1本などの小片であっても、高所から落下すればものすごい凶器になります。
所有する建物から生じた事故によって、人や動産・不動産に被害が及んだ場合、大家さんは損害賠償責任を負う可能性が高いです。
しかも、この場合の賠償責任は「無過失責任」になりますから、大家さんに非がなくても免れることができません。
もし、欠陥を放置したり、法令違反があるなどの過失が大きかった場合は、業務上過失致死傷などの刑事罰が科される可能性もありえます。
損害はそれだけにとどまらないかもしれません。
安全対策を軽視したという評価が広まることによって信頼が毀損されたり、事故の起きた物件ということで資産価値が下がったりするなど、副次的な影響を受けることもあります。
老朽化リスクの回避策① 保全
建物は竣工した瞬間から劣化が進み、性能が徐々に低下していきます。
建物の魅力や機能を落とさないことに加えて、事故を未然に防ぐためにも、「予防保全」として継続的なメンテナンスは欠かせません。
壊れていたり、事故が起きていない段階で、予防のために費用を拠出することに抵抗を感じる大家さんも多いですが、適切な保全措置は、建物や設備の寿命を延ばすことにもなりますから、修繕費用の圧縮にもつながることです。
しかし、まだまだ使える機器や設備を「予防保全」だからと、耐用年数が過ぎたとたんに取り替えたり、築10年経過したから即座に外壁を塗り替えたりというのは、ちょっと保全が過ぎるように思います。
環境や使い方や手入れ方法や製品のロットなどによっても、修繕のタイミングが変わることはよくありますから、定期的に点検を行って、劣化の進行状態を見ながら必要に応じて適切な修繕を行っていく必要があります。
大家さんが自分で見て判断がつけばいいのですが、専門的な知識も必要となるため、なかなか難しいのも事実です。
そのような場合は、建物の保守・点検・メンテナンスに強い専門業者に見てもらうことになりますが、単発で一級建築士事務所などに建物検査をお願いすると、それだけで週十万円単位のお金がかかります。
やはりここは、常日頃から付き合いのある管理会社にしっかりと点検をしてもらうべきです。しかし点検業務は、会社によってかなりレベルに差があります。
素人が「見るだけ」の会社もありますし、専門家が「見たうえでどうしたらいいか」まで提案してくれる会社もあります。
管理委託をする際は、なにをどこまでしてもらいたいのかを明確にして、それに見合った会社を選ぶことが大事です。
▶ 参考:賃貸住宅の巡回点検業務
老朽化リスクの回避策② 保険
点検やメンテナンスをキチンと行って、さまざまな予防策を打っていても、事故が絶対に起こらないとは言いきれません。
台風や地震などの天災もありますし、外的な要因で起きてしまった被災事故などもありえます。
大家さん自身に過失があろうとなかろうと、所有物件によって被害にあってしまった第三者の方への賠償はしなくてはいけません。
そのようなときの解決手段として、最終的にはお金に頼るしかありませんから、保険は上手く活用するべきです。
そこで力を発揮するのが、「施設賠償責任保険」です。
火災保険・地震保険は基本ですが、施設賠償責任保険はかけておられない大家さんもいらっしゃいます。事故への対応としては必須の保険です。それほど値が張るものでもないですから、加入しておいた方がいいでしょう。
▶ 参考:大家さんのための火災保険
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この記事を書いた人
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地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。
【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他
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