退去トラブルのリスク

賃貸経営をしていると、日々たくさんのトラブルやクレームに接することになりますが、その中でも最も不毛なトラブルが、退去時の原状回復費用負担や敷金返還をめぐるトラブルです。

なぜなら、もう退去をした後の、これ以上お付き合いを続けても1円の家賃も生み出してくれない元入居者とのトラブルに時間を費やし、神経をすり減らさなくてはならないからです。

 

縁あって入居して、家賃をいただいていた元入居者と、最後の最後でダラダラと揉めてもいいことなんて何もありません。そんな時間があるのなら、新しく入ってくる入居者に向けてなにかサービスのひとつでも考えた方が建設的です。

入居者の故意や過失、または悪質な使用によって大きな被害をこうむってしまったことについて、泣き寝入りをしろと言っているのではありません。

賃貸経営は慈善事業ではないですから、然るべき対処はとことんまでキッチリと行っていかなくてはいけません。

しかし、時代の流れは過去の商習慣を否定しつつあります。「昔はこうだったから」という理由で争っても、多くの場合で、大家さんが負けることになります。

 

かつての商習慣と今のルールには差がある

長く賃貸経営をしている大家さんは、退去後の原状回復は、入居者から預かった敷金で行うものだと思っていたと思います。ひょっとしたら、今でもそう思っている方もおられるかもしれません。

「原状回復」の定義があいまいで、退去するときには、入居したとき同様の状態に戻さなくてはいけないと、入居者側も思っていました。

しかし、そんな中でも退去時の費用負担についてトラブルになるケースはあり、1998年に国土交通省から「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(初版)」が発行、その後2001年に消費者契約法が施行されると、消費者である入居者の利益を一方的に害する賃貸借契約書は無効となることになりました。

そして2004年に、「東京ルール」と呼ばれる賃貸住宅紛争防止条例が施行されると、一気にこれまでの常識が非常識になりました。

 

インターネットの情報拡散力も手伝って、これまで「敷金は補修費に使われて返ってこないもの」と思っていた入居者も「敷金は基本的には返ってくるはずのお金」という認識に急速に変わっていきました。

原状回復の負担や敷金の返還で争うことになったら勝てる、と消費者の弱い立場を逆手にとって、自分の過失なのに横柄な態度をとる退去者もいます。

そんな時、その原状回復費用が入居者の過失によるものであるという立証責任は、大家さん側にあります。

「昔はこうだったんだから今もそうしろ!」という根性論は通用しません。今のルールをしっかり把握して、揚げ足を取られないように理論武装しなくてはいけません。

▶ 参考:原状回復の考え方の変化

 

トラブルを未然に防止する3つの対応策

トラブルが起こってから慌てるのではなく、そもそもトラブルを起こさないようにしましょう。

1.原状回復について正しい知識をもつ

ルールは時代や市場環境の変化によって変わります。

その時々の社会的な課題によって、ガイドラインが作られたり、法律によって規制されたりします。

大家さんが無知だと、退去者が言っていることが正当なのか、横暴なのかわかりません。正しい情報・知識を持ち、トラブルを防ぐことが、自分の身を守るためには大事です。

▶ 参考:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(大家マニュアル)

 

2.入居時チェックと適切な退去立会

常に新築・新品の状態で引き渡しができるわけではない賃貸住宅は、補修費用の負担について「言った・言ってない」「聞いた・聞いてない」「壊した・壊してない」「初めからだ・入居中だ」と、証明できない水掛け論でトラブルになることが多いです。

これを防ぐには、

  1. 入居時に入居者・大家さん双方で、元々の状態をキチンとチェックしておくこと
  2. 退去の立ち会い時に入居者・大家さん双方で、過失と負担金額についてキチンと確認をとること

この2点につきます。

過失の認定ができないまま争って時間だけが過ぎていき、リフォームもできずに空室を放置し続ける、なんてことになっては最悪です。最悪揉めてしまったとしても、速やかに次の入居者を迎えられるような段取りをしましょう。

▶ 参考:退去立会いと清算

 

3.原状回復に係る契約条項の明確化

いちばんの肝になるのは、もう何を差し置いてもこの点です。

賃貸借契約がすべての基本です。

ここがあいまいなのに後出しでゴネても説得力がありません。

ガイドラインや消費者契約法などのルールは、立場の弱い消費者に著しく不利な契約条項であってはならないという趣旨で制定されており、清掃代やリフォーム代を請求してはならないというものではありません。

契約自由の原則」が侵されるものではありませんので、キチンとお互いに合意の上で結ばれた契約であれば有効です。基本は忠実に抑えておくべきでしょう。

▶ 参考:原状回復義務と契約の重要性

 

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この記事を書いた人

管理人 いろは大家マニュアル Site administrator
地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。

【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他

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