家賃滞納のリスク

賃貸経営は売り上げのほとんどが家賃収入ですから、家賃の滞納・未払いが経営に与える影響は大きいです。

一般的に提供されている多くのサービスは、利用料が支払えなくなったら即座にサービスが停止されます。

 

しかし、賃貸住宅は提供しているものが、その人の生活そのものである居住空間であるため、今日家賃が払えなかったから明日出ていってください、ということが認められにくい事業です。

どんなに悪質な滞納者であっても、居住の安定化を理由に、消費者である入居者が保護されてしまう現状があります。

話し合いで未納家賃の支払いや退去の合意ができない場合、裁判所に訴えを起こして判決をもらう必要がありますが、滞納が原因で退去してもらうことができるのは、3ヶ月分の家賃が未払いとなるなど、損害がだいぶ大きくなってからになります。

 

自力救済に対する目が厳しくなった

今では、どの物件の募集資料を見ても「保証会社必須」という文言を見つけますが、ほんの10数年前までは、賃貸借契約時に保証会社を使うことはあまりありませんでした。

やっていることの善悪は別にして、なんとかかんとか、自力で解決していたのです。

家賃の滞納があれば、遅い時間だろうが在宅の時間を見計らって督促に行きましたし、無視が続くようならドアに張り紙もしましたし、それでも無視なら合鍵を使って押しかけたりもしました。

家賃を支払わない入居者が悪いので、そうされても仕方がないと(本当はダメですが、かろうじて)思ってもらえる時代でもありました。

 

しかし、2007年に貸金業法が改正されて以降、自力救済に対する世論の目がかなり厳しくなりました。

夜討ち朝駆けはダメ、執拗な取り立てはダメ、合鍵使った不法侵入はダメ、荷物を勝手に出すなんてもってのほか…。昼間の明るい時間に電話をする、訪問する、督促状をポストに入れる、内容証明郵便を送る、そのくらいしかできなくなりました。

それに伴って、入居者側の権利意識も急速に高まり、自分の家賃滞納は棚上げにして、自力救済を行う大家さん側を糾弾するケースが増えることになったのです。

▶ 参考:RETIO判例検索システム(自力救済・貸室立入)

 

自力救済が認められない行為であることに全く異論はないのですが、それを逆手にとって居直る滞納者がいることも事実です。

では、そのような悪質な滞納者に出くわしてしまったときのために、大家さんはどんなリスクヘッジをすることができるのでしょうか。

 

1.保証会社をうまく使う

まず真っ先に検討すべきなのは、家賃保証会社の利用です。

▶ 参考:家賃保証会社がやってくれること

 

きちんと手続きを踏んで請求をすれば滞納分を立て替えてくれますし、立て替えた分の督促業務はすべてお任せできますから、大家さんは滞納で悩まされることがなくなります。

ここ数年、家賃保証会社の認知度と利用率が急速に増えてきました。

かつては、保証会社の必加入が競争力の低下につながるということで、利用しない大家さんも多かったですが、滞納督促が困難になるにつれて利用率が高まっています。

今後行われる民法の改正、今秋から施行される新しい住宅セーフティネット法でも、保証会社の果たす役割は大きいですから、今後ますます需要が高まることが予想されます。

 

2.法的な措置をとれる準備をしておく

新しく入ってくる入居者に対しては、保証会社の加入を賃貸条件にすることができますが、既存入居者で加入していない、もしくは何らかの原因で保証が切れてしまった人は、再加入することができません。

日管協が半期に一度公表している日管協短観2016年度下期データによると、2ヶ月以上の滞納率は全国平均で1.3%。

 

100戸所有していたら1~2戸くらいは長期滞納になる入居者がいてもおかしくない数字です。

2ヶ月以上の滞納者といえども、きちんと話をして、事情を考慮した上で支払いの調整を行えば、滞納を解消して通常通りの支払いサイクルに戻すことも不可能ではありませんし、連帯保証人が立て替えてくれることもあります。

しかし、どうしても家賃滞納が解消できそうになければ、任意退去を促して新しい入居者を募集し、一刻も早く健全な状態に戻すことを考えなくてはなりません。

▶ 参考:入金管理と滞納の基本

 

しかし、督促業務が不得手な大家さんや管理会社だと、うまく滞納分の回収や任意退去を促すことができずに、ズルズルと滞納期間と金額が増えてしまうことがあります。もしくは、本当に悪質な居直り滞納者もいます。

そのような状況にまでなってしまったら、当事者同士(大家さんと入居者)での解決がかなり難しくなりますから、第三者(裁判所)に介入してもらって法的な解決を図る必要が出てきます。

長く大家さんをやっていれば、裁判の1度や2度は経験していることと思います。

頻繁に行うことではないので、管理会社や弁護士(もしくは司法書士)の言うとおりにしているケースが多いと思いますが、任せっきりにするとかなりの費用負担が発生するのも事実です。

滞納分が回収できないうえに、明け渡し完了までは無収入、弁護士費用や裁判費用が嵩むことになると損失は甚大ですから、できるだけそうなる前に解決できる算段をするか、本人訴訟も検討しましょう。

 

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この記事を書いた人

管理人 いろは大家マニュアル Site administrator
地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。

【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他

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