建物の管理とは
新築した建物はピカピカで、建築の不備がなければトラブルなんてほとんど起こりません。
家賃もその時いちばん高い家賃設定がされていますから、実入りが多くて支出は少ない、減価償却費もたっぷりありますから引ける経費が多く税金も少なめで、賃貸経営なんてちょろい商売だな!と思われる方も多いと思います。
現金が貯まりやすくなっていますので、ついつい散財してしまったりもします。
しかし竣工から10~15年を超えてくると、給湯器やエアコンなどあちこちの住宅設備が壊れ始め、ちょこちょこポンプや自火報などの機械設備の誤作動が出るようになり、建物自体もくすんできたり、クラックが目立つようになったり、塗装がはがれたりしてきます。
市場には常に最新の賃貸住宅が供給され続けますから、設備も間取りも古めかしく感じられるようになり、競争力が下がるとともに家賃も下がり気味になります。
だんだんと、収入が下がるのに支出が増えてきたな、と感じるようになります。
建物管理の費用は削られやすい
これまでと同じくらいの手取りを確保したいと考えたとき、収入を増やすよりも支出を抑えることを考える大家さんはとても多いです。
部屋の戸数や家賃収入は簡単に増やすことはできませんから、至極当たり前のように思えます。
賃貸経営で大家さんがコントロールしやすい支出は、維持管理費や修繕費などの建物管理費用ですから、この費用がまっ先に削られることになります。
清掃の回数を2回から1回に減らす、建物や設備点検の回数を減らす、壊れかけているのはわかってるけど修繕しない、場合によっては法定点検を行わない大家さんもいらっしゃいます(危険です)。
しかし安易に建物の維持管理費用を削ってしまうと、クレームやトラブルが増えて退去につながったり、早めに対処すれば小修繕で済んだものが大がかりな工事が必要な破損に拡大したり、最悪の場合だと、大きな事故が起きて人身に被害が及んだり、大家さんに罰がかかってくることもありえます。
まさに負のスパイラルです。
このような事態を防ぐためにはやはり、中長期的な目線でメンテナンスを考えることが大事です。それがいわゆる、ライフサイクルマネジメントという考え方です。
ライフサイクルマネジメントとは
賃貸住宅を建てる企画段階から、建築して竣工、日々の運営を経て最終段階の解体に至るまでをシミュレーションし、その間に適切な点検やメンテナンス、修繕を行いながら計画的に運用していくことをライフサイクルマネジメントといいます。
計画的にと言われても、5年先の未来すら読めないし、ましてや20年先、30年先なんてよくわからない、とおっしゃられるかもしれません。
ライフサイクルマネジメントは、数十年先までの正確な数値計画を立てることが目的ではありません。
木造にしてもRCにしても、大体どのくらいのサイクルでどのようなコストがかかってくるかは、先人たちの事例をみればわかるはずです。そして、未来には今では考えもしない新しい暮らし方や機器や機能が生まれているかもしれません。
現時点での想定を元に、そのときどきで起こり得る変化にも対応しながら、市場にマッチする商品を供給し続けるための運営計画を行うのが、ライフサイクルマネジメントです。
これについては、鹿島建物さんの「LCM(ライフサイクルマネジメント)という考え方」というページにあるイラストが、とてもわかりやすく表現されていて秀逸だと思います。
自分の建物の管理方針を定める
日本では古い建物にはほとんど価値が残らず、消費者の新築ニーズの異常な高さも手伝って、建物の維持管理をキチンと行って、こまめに改良をするなど手を入れて長く大切に使っていこうという風潮があまりありませんでした。
償却が終わって古くなった建物はスクラッブ&ビルド、(帳簿上では)価値のない古い建物はさっさと取り壊して新築した方が、お金が動いて景気対策になりますから、国も新築を支援します。
特に賃貸住宅は、新築の方が収益性が高いですし、借金で資産を相殺すれば相続税対策、所有者である大家さんは建物に対する愛着が低め、そしてなによりハウスメーカーがそのように営業をしますのでこの傾向が強いです。
一方で、空き家問題に端を発する、既存住宅の有効活用やリフォーム市場の活性化に向けた取り組みも始まってはいます。
一部の不動産オーナーの間でも大規模なコンバージョンやリノベーションを施した、建物の再生に取り組んでおられる方もいらっしゃいますが、圧倒的に少数派です。
そもそも日本の賃貸住宅なんて工場生産プレハブ小屋の使い捨てでしょ?メンテナンスにお金をかけるなんてナンセンス。というご意見もありますし、ごもっともかもしれません。
管理は大事、とはいえ、無尽蔵にお金をかけられるわけでもありませんので、「安全性の確保は最優先に」「快適性、衛生面は手を抜かない」「顧客満足度の最大化を目指す」「時代のニーズに即した水準をできるだけ維持する」など、大家さんは物件ごとの管理方針を定めて管理していくことが必要なのかもしれません。
Follow me!
この記事を書いた人
-
地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。
【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他
NEW POST
- 火災保険の基本2017.10.12入居者に入ってもらう火災保険
- 火災保険の基本2017.10.12大家さんのための火災保険
- 賃貸経営リスクの基本2017.10.12大家さんが無知であることのリスク
- 賃貸経営リスクの基本2017.10.09天災・事故や事件などの災害発生リスク
CONTACT
送信専用の匿名コンタクトフォームです。お気軽にどうぞ