大規模修繕工事とは

鉄筋コンクリートの寿命は50年、とか、100年住宅、とか、耐用年数は47年、34年、27年、22年だ、などと建物の寿命の話題ではそれらの数値がよく飛び交います。

しかし、建物の建っている場所はさまざまで、例えば、潮風がさわやかに吹き抜ける場所では塩害が、地盤が緩めの土地では部分沈下によるひずみが建物に及ぼす影響は多大です。

一律何年、という尺度では現物は計れそうにありません。

 

台風が直撃しやすい地域もあれば、海抜が低く浸水被害が起こりやすい地域もあります。

建物自体は頑強でビクともしないものであっても、建物に付帯している設備や造作物は躯体よりも早く傷みますし、壊れます。

建物や設備の老朽化による劣化は、運営コストの増加や家賃の下落を引き起こし、事故発生リスクが高まるなど、じわじわと賃貸経営に悪影響を及ぼしていきます。定期的に点検を行い、適切なタイミングで工事を行うことが必要です。

 

大規模修繕工事とは

大規模修繕工事とは、給湯器が壊れた、ポンプが動かない、など発生するたびにその都度対応しなければいけない修繕ではなく、劣化のペースに合わせて計画的に行う、ある程度まとまった修繕工事のことです。

例えば、

  • 外壁塗装
  • コンクリートのひび割れ補修
  • タイルの貼り替え
  • 防水工事シーリングの打替え
  • 鉄部塗装
  • 長尺シートの貼り替え
  • エレベーターの更新
  • 給排水管の更新
  • 消防設備・ポンプ・受水槽・照明器具などの機械設備の更新
  • 集合ポストや掲示板、エントランスなどの改修
  • 駐車場や駐輪場の整備  などです。

外壁の工事は足場を組んで行う必要があり、工期もある程度かかりますので、こまめに何度も行うというよりはある程度の工数をまとめて行った方が効率的です。

工事中は入居者の日常生活にも影響を与えますから、あらかじめ告知をしておかなくてはいけませんし、費用も安いものではありませんので、従前から積み立てておくなど資金繰りの計画も必要になります。

 

大規模修繕工事の考え方「修繕と改良と改修」

賃貸住宅ではあまり計画的に行われているとはいえない大規模修繕ですが、分譲マンションでは資産価値の維持と向上のために計画的に行われており、国土交通省から「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」という手引書も公開されています。

分譲マンション向けに作成されたものなので、すべてをそのまま賃貸に汎用することはできませんが、その中でも「修繕と改良と改修」の概念については知っておいても損はないと思います。

 

*参考:改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル

 

図にある「補修」というのは、壊れたりしたときにその都度行う工事のことで、日々の管理業務の中で行うものです。

大規模修繕工事のときに重要なのは、以下の工事項目です。

 

修繕」というのは、経年とともに劣化していく性能を元に戻すための工事です。要するに、原状回復です。

例えば、耐用年数を過ぎて不具合が生じがちな設備を新しいものに交換したり、塗装の剥がれやサビをきれいに塗り直したり、劣化した防水層やシーリングをやり変えたりします。

 

その上に積まれた「改良」は、経年とともに高まる機能やニーズに応えるために行う、付加価値を高めるための工事です。

例えば、手紙が入るだけのサイズだった郵便受けを大型のメール便が入るタイプに替えたり、オートロックや防犯カメラなどを設置してセキュリティ機能を高めたり、エントランスリニューアルを行って見た目のカッコよさを高めたりします。

 

そして「改修」は、「修繕」と「改良」を総称したものです。

「修繕」工事は劣化した部分を手直しする工事が多くなるので、「改良」工事のように見た目に大きな変化が出ません。

賃貸住宅の大規模修繕は、どうしても入居付けの意図が色濃くでてしまいますので、工事内容のバランスが「改良」工事に偏りがちです。しかし「修繕」工事を疎かにすると、設備機器の停止・断水・漏水・爆裂・剥落など事故の危険性が高まります。

大規模修繕工事はその2つの工事を、できるだけバランスよく行うことが大事です。

 

大規模修繕工事済みの中古物件を購入するときなどは、その内容のチェックを怠らないようにしましょう。売却価格を高くするために、中身は全く触らずに表層だけをピカピカにリニューアルして売り出すことはよくあります。

 

長期修繕計画書を作成する

大規模修繕工事を円滑に行うためには、やはり長期修繕計画書の作成が効果的です。

いつ頃、どのような工事が必要になるのかをあらかじめ把握しておくことで、資金計画も明確になりますし、これまでの工事履歴を整理することにも繋がり、突発的な事故や行き当たりばったりの出費を軽減することにもなります。

計画書と言ってもそんな小難しいものではなく、建物の構造や付帯している設備を拾い出して、必要になるメンテナンスのサイクルを一覧表示するようなもので充分です。

仲介店系の管理会社には少し荷が重いかもしれません。

メンテナンスに強い、もしくは建築に強い管理会社であれば作成を手助けしてくれると思います。

 

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この記事を書いた人

管理人 いろは大家マニュアル Site administrator
地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。

【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
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福祉住環境コーディネーター 他

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