原状回復義務と契約の重要性

退去時の敷金清算でトラブルになる事例のほとんどが、この「原状回復義務とその費用」についてです。

賃貸住宅の敷金、ならびに原状回復トラブル」の増加を受け、平成10年3月に、原状回復に関する裁判例等を集約し費用負担等のルールについてまとめたガイドラインが作成されました。

▶ 参考:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

 

原状回復義務とは

賃貸借契約書には、賃貸借契約の終了時には、入居者は部屋を「原状に回復」して明け渡さならければならないと書いてあることが多いです。

大家さん側がこの「原状に回復」を広く解釈して、次の入居募集を可能にする状態までのリフォーム代を請求すると、入居者は自分が壊したり汚したりした部分以外の箇所まで負担するのはおかしい、ということでトラブルになります。

ガイドラインは、齟齬が起きやすいその部分の考え方を示していて、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。

要するに、自分が壊したところは自分で直さなきゃだめだよ、でも、普通に使っていて自然に消耗した部分までは直す義務はないよ。ということです。

しかし、この「原状に回復」=「次の入居募集が可能なレベル」という認識は、ガイドラインが公表されてからもしばらくの間は抜けきらず、今でも入居者が全部直すものだと思っている大家さんもいます。

逆に、ガイドラインを錦の御旗のように振りかざして、敷金を全部取り返してやろうと臨戦態勢の入居者もいますが、多くの場合、自分に都合のいい部分だけをピックアップして(若干無茶な)主張をしてきます。

冷静に対応することが大事です。

 

経年劣化とは

部屋の内装や設備は、もし入居者が丁寧に注意して暮らしていたとしても、年を経るごとに劣化します。

「経年劣化」や「通常損耗分」と呼んだりしますが、このような通常の劣化に対する費用は家賃としてすでに受領しているものです。

ガイドラインは、もし入居者に過失があったとしても、そのもうすでに払っているはずのお金を退去時に清算するのは2重取りになるとして、経年によって負担割合を減少させるように示しています。

大家さんは賃貸の建物を減価償却しているので、考え方はわかりやすいと思います。

建物は、構造や用途によって耐用年数が決められていて、木造なら22年、RCなら47年かけて徐々に簿価が下がっていきます。

入居者への費用負担もこの考え方を採用していて、例えば、クロスの耐用年数は6年を目安とされることが多いです。

 

 

入居1年で全部張り替えなければいけないほどの損耗が生じている場合、入居者は大部分の貼り替え費用を負担する必要があるでしょう。

しかし「もう10年住んでます」となると、契約違反や善管注意義務違反など理由がない限り、入居者に多額の負担をさせるのは難しいと思います。

 

特約の重要性

賃貸借契約は自由契約です。

契約当事者である大家さんと入居者の双方が合意したものは原則、有効です。

しかし、いくら双方が合意しているからといっても、立場の弱い入居者(貸してもらう方)に不利な契約となることがありますから、あまりにも無茶な契約は「無効」と判断されることがあります。

例えば、大家さんの都合でいつでも即時解約できる、とか、更新料は家賃の1年分を支払う、などの契約は無効になります。

しかし、退去時のクリーニング代(3万円)は入居者が負担する、くらいならあまりにも無茶だとは言えないかもしれません。

「特約」で明確に提示してあって、暴利的でなく、客観的・合理的な理由があって、入居者がその特約を理解して了承していたら、その特約は「有効」となります。

 

契約時が大事

賃貸借契約は、数年単位の長期間になることが多いです。

何年も経った後で「言った、言わない」などのやりとりを記憶に頼ると、問題の解決が難しくなりがちです。

退去のときに要らぬトラブルを発生させないためには、入居のときにしっかりとお互いに確認し、納得して契約をしておくことが大事です。

特約事項もそのひとつですし「入居時チェックリスト」などの活用も有効です。

入居時チェックリストは、手直しを頼まれることが増えるからイヤだという大家さんもおられますが、後々トラブルに発展してしまったとしても迅速な解決につながる有用なツールです。

国交省のウェブサイトから、チェックリストのサンプルをダウンロードすることができます。

使いやすいように少しカスタマイズして活用してみてはいかがでしょうか。

▶ 参考:入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)

 

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この記事を書いた人

管理人 いろは大家マニュアル Site administrator
地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。

【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他

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