原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

賃貸借契約は「契約自由の原則」に則って、契約当事者間の自由な意思、双方の合意に基づいて行われるものですが、文言の解釈の違いや、説明不足・認識不足などによって、退去時に原状回復費用をどちらが負担するのかについて意見の相違が起きて揉めることがよくあります。

そのようなトラブルを未然に防ぐために国土交通省は、「原状回復の費用負担のあり方」についての一般的な基準を「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」として公表しています。

 

原状回復トラブルは出口の問題か、入口の問題か

原状回復の範囲や負担割合、金額などをめぐるトラブルは主に退去時に発生する問題です。

入居時に細かく言うとうるさい大家だと思われたり、入居者の良心を信頼していないと思われるのがはばかられて、なかなかキチンと説明できないまま退去時に揉めます。

しかし、そのあいまいさがトラブルの種になっていることも事実ですから、原状回復についての説明は出口(退去時)の問題と先送りにせず、入口である賃貸借契約時にしっかりと行っておく必要があります。

そして、大家さんと入居者はもちろんですが、仲介をする仲介店、管理会社、退去時に立ち会いを行うリフォーム会社など、関係するすべての人が共通認識を持って適切に対応することが必要です。

 

ガイドラインは目安となるものですが、契約自由の原則のすべてを脅かすものではありません。

具体的に明示されていて、入居者がその内容を明確に認識してしっかりと合意したものであるならば、ガイドラインにそぐわない形での賃貸借契約ももちろん有効です。

契約当事者間で具体的な費用負担の合意ができているのに、退去時の立会者がそのことを知らず、ガイドラインだけを考慮して大家さんに不利な退去立会いをしてしまっては、なんのための契約かわかりません。

 

ガイドラインのポイント

1.「原状回復」の定義

ガイドラインでは原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。

経年劣化や自然損耗についての修繕費用は家賃に含まれるものとして、大家さんの負担となります。

 

2.「通常の使用」の定義

普通に暮らしていて自然に損耗する以上の、故意・過失や善管注意義務違反、または適切な処置をしなかったことによる損耗の拡大などは、入居者の負担になります。

たばこのヤニ、子供が壊した、ペットの粗相、掃除をしない、換気をしない、結露を放置、などの理由で発生した損耗は入居者負担の最たるものです。

 

3.「経過年数」の考慮

故意過失などの損耗がある場合でも、内装材や設備には経年による価値の減少があります。

経年劣化や自然損耗の費用は、大家さんの負担です。

3ヶ月でボロボロにして退去した人には当然、原状回復費用をきっちり払ってもらいますが、20年も住んだ人は、過失があろうがなかろうが、もう耐用年数は切れていて価値は残っていない、ということです。

クロスやクッションフロアなどの内装材は6年で償却、流し台は5年、エアコンは6年、便器や洗面台などの給排水衛生設備は15年、のように部材ごとに耐用年数が決められています。

 

4.「施行単位」の範囲

入居者がクロスを一部はがしてしまった。色合わせも必要だから室内全部を張り替えるが、すべて入居者負担でいいのか、という判断の単位です。

ガイドラインでは、可能な限り毀損した部分に限定して工事可能な最低限度を施行単位とすることになっています。

入居者の負担はあくまでも原状を回復させるためのもので、キズをつけた部分のみであり、それ以外の負担は価値の維持・向上の要素があり入居者に負担させるのは適切ではない、ということになります。

具体的に言うと、タタミやふすまなら1枚単位、クロスなどは㎡、もしくは1面単位などで判断されることが多いです。

 

原状回復費用負担の「立証責任」は大家さんにある

退去立会時に発見されたキズや汚れについて原状回復の負担を求めたとき、入居者が「そのキズは入居したときからあったもので、自分がつけたものではない」として費用負担を拒否することはよくあります。

そのようなときに入居者の過失であることを立証する責任は大家さん側にあります。

証拠がなければ突っぱねられても文句は言えません。そういった意味でも、原状回復トラブルの未然防止には、< 入口 >すなわち、契約時や入居時の確認が大事だと捉えておく必要があるでしょう。

 

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この記事を書いた人

管理人 いろは大家マニュアル Site administrator
地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。

【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
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福祉住環境コーディネーター 他

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