賃貸住宅のリノベーション
ここ数年で賃貸住宅業界でもリノベーションという言葉が市民権を得てきました。
「Renovation」とは、刷新・改善・修理・修復という意味の英単語で、増築・改築や建物の用途変更などの資産価値を高めるための大規模な改良工事を指すときによく使われます。
経年と利用状態によって減ってしまった分の価値を元に戻すのが「原状回復」、デザイン性を高めたり新しい機能をつけたりして、元々の価値以上のものにグレードアップするのが「リノベーション」というように区別されることが多いです。
原状回復とリノベーションの境目はかなりあいまいで、原状回復+壁の1面をアクセントクロスにしたものを「リノベーション済」と広告していたりもします。
以下、本文内に掲載している写真は、おおむね賃貸住宅の施工事例です。住宅のリノベーションやデザインのためのプラットフォームサイト【 Houzz (ハウズ) 】 から引用させていただいています。 サイト自体は賃貸リフォーム専用というわけではありませんが、インテリアデザインの参考によく見させていただいています。見ていると、ものすごくリノベーションがしたくなります(個人的感想)。 |
リノベーションのメリット・デメリット
リノベーションのメリットと言えばもちろん、空室を早期に埋めることができることと家賃の値上げが期待できることです。
設備や排水横管まで交換すれば、当面の故障クレームや漏水などの事故も防げます。
特に配管工事は、通常の原状回復リフォームで床をすべて施工し直すことは稀ですから、リノベーションのタイミングで同時に行ってしまえば一石二鳥です。
過去に配管からの漏水事故が発生したことがある物件では、同様のことが他の部屋でも起こりえます。入居中に漏水すると時間的にも費用的にも負担が重くなりますので、同時施工の検討余地はあります。
デメリットは、通常のリフォームよりも、お金がかかることと、時間がかかることでしょうか。
リノベーションは間取りの変更や、新しい造作、住宅設備の交換まで行う場合がありますので、どうしてもそうなります。
また、マーケティングを疎かにしてリノベーションを行うと、想定していた家賃で入居付けできなかったり、時間がかかったりします。大きな投資をするからには、計画通りもしくはそれ以上の結果を出さなくてはいけません。
▶ 参考:マーケティングの基礎を知っておこう
リノベーションのコツ
賃貸住宅にリノベーションという言葉や概念が出てきはじめて、10年くらい経つでしょうか。共通言語として使われるようになってきたのは、まだここ5~6年のような気がします。
そのくらいの短期間ではありますが、賃貸リノベーションのトレンドはかなり変遷を重ねたように思います。
- 原状回復にアクセントクロスを張ったもの
- 塗装メインで施工したもの
- 原色系のビビットな部屋造り
- 北欧風・カフェ風・ブルックリン風などのスタイリング
- イケア推し
- インテリア小物推し
- 無垢素材推し
- むしろ全部はがしてコンクリート躯体丸出し
などなど…。
おそらくこれからも流行は移り変わると思います。
トレンドがどうあろうとひとつ言えるのは、新築と見紛うリノベーションでは本当の新築には勝てない。ということです。
中古物件の改装である以上、室内すべてを新品に取り変えたとしても、ベランダも廊下もエントランスも築年数相当です。「イマドキのよくある新築」とは少し違った視点をもってプランニングする必要があります。
あとは、やるなら全部に手を入れる。ということです。
居室もトイレもキッチンも、元の面影なくとてもハイソでカッコイイのに、なぜかお風呂だけが全く手つかずで古いユニットバスのまま、ということがよくあります。
予算の都合でそうせざるを得なかったのはわかりますが、お風呂以外が素敵なために古い部分が余計に浮いてしまい、とてももったいないです。無尽蔵にお金をつぎ込めない以上、すべてを取り換えることがむずかしいのであれば、残す部分が不自然にならないようなリノベーションを行う必要があります。
リノベーション投資の考え方
リノベーションにかける金額については、様々な考え方があります。
「家賃の半年分まで」でないと投資できない、という意見もありますし、いやいや「家賃の3年分くらい」出してしっかりテコ入れしましょう、という意見もあります。これらは「回収期間」に視点を置いた考え方です。
または、投資をすることによってどれだけ儲けが増えるのか、家賃の値上げ分を投資金額で割って「利回りベース」で費用対効果を見ることもあります。
例えば、200万円のリノベーションをしたら家賃を月1万円上げることができる、すなわち年12万円収益が増えて、この投資は、12万÷200万=利回り6%の投資だからやろう(もしくはやるまい)という判断です。
いろいろな意見があるので、一体全体どの考え方が正しくて、自分のリノベーション計画ではどの指標を重視するべきなんだ?と悩まれる大家さんも多いように感じます。
- 借り入れをしてリノベーションをする場合
- 自己資金で賄う場合
- 経費のコントロールが必要な場合
- あと5年で手放す場合
- まだまだ20年は運用する場合
- 事業承継する場合
- 法人所有の場合
などなど…。大家さんの立ち位置や優先順位によってやり方や考え方は変わると思いますので、正直、一概には言えません。
ただひとつ言えるのは、その部屋だけのことを見て判断することは控えた方がいいのではないか、ということくらいです。
おそらくリノベーションを提案してくる業者は、その部屋「単体」での収益計算、費用対効果、出来栄えの美しさ、しか提案してきてはくれません。
大家さんの資産構成や事業の状態はわかりませんから、総合的な観点からの提案などできるはずもありません。
他の部屋、共用部、機械設備、躯体、さらには他の物件、他の事業…を複合的に見て、その投資が適切だと思えば「GO」ですし、今はそのタイミングではないと思えば「NO」です。
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この記事を書いた人
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地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。
【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他
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