家賃収入下落のリスク
賃貸住宅を建てるときや購入するときには、想定される収入や支出をシミュレーションして、希望する収益に見合うものであると判断して購入します。
現金一括払いでどーんと買う方もいらっしゃいますが、ほとんどの大家さんは金融機関で借り入れをして購入します。ローンの組み方次第では、月々の返済比率がかなり高めになっていて、家賃の下落や空室の増加が資金繰りに大きな影響を与えることがあります。
もしくは、ローンの返済自体には問題がなくても、収益性の低下から必要な修繕やリフォームなどの投資が行えず、資産としての価値を下げてしまっているケースもあります。
家賃を下げれば空室は埋まる
世の中に流通している商品と同様に賃貸住宅も、需要と供給のバランスで価格が決まります。
誰もが住みたがる物件なら強気の家賃設定でも決まりますし、どんなにボロボロの掘建て小屋でも借りたいという人が現れることはあります。
顧客のニーズとその物件の価格が同等であれば、入居はおのずと決まっていくものです。
早く決めたいと思えば、近隣の競合物件より少しお得な価格設定にすれば決まります。いつもより動きが悪いと思う時は、競合物件が割安な価格を出してきているのかもしれません。
「家賃を下げても決まらない」という時は、なにかしらかの要因があります。
例えば、下げた家賃ですら顧客ニーズより高めだったり、家賃以外の忌避要因が強かったり、そもそも募集活動がちゃんと行われていなかったり、などです。
▶ 参考:入居募集の基本
それらを解消すればいずれは決まっていきますが、問題は、入居さえしていればいいのか、その家賃収入で事業は成り立っているのか、計画通りの収益が得られているのか、ということです。
家賃の値下げは資産価値を自ら貶めている
賃貸経営をしている大家さんは、ほぼ100%の確率で仲介店や管理会社から「家賃を下げたら決まります」と言われたことがあるのではないでしょうか。
家賃をいくらか下げることくらい、大家さんのさじ加減一つなので簡単なことではありますが、安易に家賃を下げることは物件の価値にどのような影響を与えるものなのでしょうか。
日本の住宅は、建物が古くなるとともに少しずつ価値が下がっていって、いくらメンテナンスやリフォームなどで品質を保っていたとしても、20年もすれば帳簿上の資産価値はほとんどないよ、とみなされてしまいます。
しかし、賃貸用の不動産などの収益物件は、どんなに建物が古くて帳簿上では価値がなかったとしても、家賃収入を稼ぎ続けてくれる以上は、買いたいというニーズに合わせて相応の値段がつきます。
このように収益物件の価値を、その物件の「稼ぎ」から逆算して算出する査定方法を「収益還元法」といいます。
ものすごくものすごく単純に考えてみます。
例
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上記のような物件があったとします。
もしこの物件を売りに出した時、家賃収入で期待する利回りを得るために、買手は1,200万円÷10%=1億2,000万円くらいであれば買ってもいいな、と思うわけです。
それがもし、退去のたびに家賃を下げて平均47,000円しか取れてなかったとしたらどうでしょうか。
計算してみると、(47,000円×20戸×12ヶ月)÷10%=1億1,280万円。
なんと、家賃をたった3,000円下げただけで、市場の評価は720万円も目減りしてしまったことになります。簡単にやってしまう値下げが、大家さんの資産の価値を大きく毀損させることになってしまっているのです。
家賃が下がっても別に生活は困らないし、売るつもりもないから市場の評価も気にしない、とおっしゃる大家さんも確かにいらっしゃます。
お金持ちはいいなあ…と思うことしきりですが、大家さん自身は困らなくても、大家さんの相続人が困ることはあるかもしれません。
ここでは詳細は割愛しますが、運用状況が不良な不動産(相続税評価額と収益性のバランスが良くない不動産)は、相続人にとっては“負“動産となってしまうことが、ままあるのです。家賃は下げたら決まりますが、下げずにいられるならそれに越したことはありません。
家賃が下がる一番のタイミングは「入居者が入れ替わるとき」
そもそも「家賃が下がる」のは何故でしょうか。
- 相場が下がってるから
- 人が少ないから
- そういう時代だから
確かにそうなのですが、昔から長く住んでいただいている入居者は、かつての高い家賃のままお住まいのことが多いです。
ネットで今の募集家賃を見たり、契約更新のタイミングなどで家賃の減額交渉をされることもありますが、多くの入居者は入居時に決めた家賃のまま住み続けています。
ということは、家賃が下がる一番のタイミングは「既存の入居者が退去して、新しい入居者が入ってくるとき」です。
新しい入居者を迎えるときには、リフォームもしなくてはいけないですし、募集活動のための広告費もいります。空室期間の家賃は当然ゼロですし、さらに家賃は下がる…。踏んだり蹴ったりです。
ということは、デフレ環境下の現時点ですぐに実行することができて、なおかつ効果的な家賃収入の下落防止対策は、今住んでいる入居者にできるだけ長く住んでもらうこと、すなわち「テナントリテンション」です。
▶ 参考:テナントリテンションの基本
その上で、どうしても発生してしまう退去の際に、如何に家賃を下げずに次の入居者を募集するかを考えていきましょう。
家賃を下げずに空室を埋める工夫
既存の建物は年が経つにつれて、どんどん劣化して陳腐化していきます。
日本全体がインフレ傾向になって、物価や家賃が上がっていく時代が到来しない限り、どうしても家賃は少しずつ下がっていきます。そして、近隣には最新の設備やデザインを取り入れた新築物件も建ち続けるでしょう。
インフレや競合物件の動向は、コントロールすることはできませんが、自分の物件にどのように手を加えて家賃の下落を防ぐかは、大家さん自身でコントロールすることができます。
築年数や立地、間取り、設備などにデメリット部分があっても、それを補うことができる付加価値をつけることで、競合物件や新築に負けない家賃設定をすることも不可能ではありません。
例えば、リフォームやリノベーションです。
▶ 参考:内装仕上げのリフォーム
▶ 参考:住宅設備のリフォーム
これらは、保守点検やメンテナンス、壊れたところを直して維持するというような「守りの投資」ではなく、価値を追加して競争力を高めるための「攻めの投資」です。
他には、賃貸条件の緩和などもあります。
初期費用を下げたり、フリーレントをつけたりすることが多いですが、今や敷金礼金ゼロ物件も普通にある時代になってしまいましたので、少しインパクトに欠けるかもしれません。上手くいったと思ったら、すぐ真似されてしまいますので、差別化にはつながりにくいのも事実です。
検討の余地があると思うのは、外国人や高齢者、小さいお子さんがいる世帯など、一般的に他の大家さんが入居を嫌がりがちな方へのアプローチです。確かに、運営上のトラブルが起こりやすいという傾向もありますが、きちんと運営ルールを定めて適宜対処できる体制を整えさえすれば、さほど難しい入居者ではありません。
他の大家さんが入居を嫌がるということは、頻繁に引越しをするということもないでしょうから、長く住んでいただける可能性も高いということにもなります。
その他には、ペット専用、楽器演奏可能、女性専用、シェアハウス、コミュニティハウス、食堂付、ゴルフ練習場付、ガレージ付、鉄オタ専用、ワイン好き専用…など、明確なコンセプトを打ち出した特化型賃貸にするという手もあります。
後付けでは難しいものもありますが、「高い家賃を払ってでも住みたいと思わせる付加価値をつける」ことに着目するのが、コンセプト特化型賃貸のポイントです。
いずれにしても、今までと同じやり方の踏襲や、誰でも簡単に真似できるやり方で、家賃を維持するのは難しいと言わざるを得ません。知恵を絞って、ノウハウを蓄積することも大事なことです。
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この記事を書いた人
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地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。
【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他
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