増える住宅ストックと多様化するプレーヤー
昨今、テレビなどでも盛んに話題になることが増えた空き家問題。
体を悪くして施設に入ってしまったり、お亡くなりになったあと住む人がいないなどの理由で、自宅が空き家になってしまうケースが増えています。
市場価値がある空き家ならまだいいですが、市場に流通しにくい事情がある不動産は処分もできず放置され、その管理について社会問題にまで発展しつつあります。
賃貸用の住宅については大家さんが事業用として運用していますから、社会問題になるほど完全に放置されていることは稀ですが、空室率と家賃の下落による収益悪化には悩まされています。
家が余るのはなぜかというと至極簡単なことで、需要より供給が多くなっているからです。
*参考:平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約(総務省統計局)
人口と世帯数の減少
高度成長期から今日に至るまで、日本の「世帯」はミニマム化を続けてきました。
一昔前までは複数人の兄弟がいて3世代同居、祖父母と両親、子供が2~3人のちびまるこちゃんやサザエさんのような家庭は普通でした。
それがだんだんと、両親と子供だけのドラえもんのような核家族が主流になりました。
子供は進学や就職で家を出て、都会で結婚して家を買い、いずれ実家に戻って家を継ぐという感覚は薄れ、古い家に高齢の夫婦だけや単身の世帯が増え続けてきました。
世帯人数が6~7人もいるようなご家庭は、今は本当に珍しいです。
供給されるファミリー用の住宅も3~4人の入居設計ですし、賃貸住宅を中心にひとり暮らし用の住宅が本当に増えました。
人口が減っていても、世帯が分割して増えていれば住宅のニーズはあるのですが、いよいよそれも打ち止めの模様で、世帯数も減少していきます。
選ばれる物件とそうでない物件
家が余っているから新しいのを建てるのをスッパリやめて、みんなが古い家に住めば空き家問題は解決するかもしれません。
しかし、資本主義社会の日本ではそうはなりません。
ニーズの高い新築住宅はこれからも建ち続けますから、日本の住宅はますます余っていきます。
上のグラフは少しデータが古いですが、最新の調査(平成25年住宅・土地統計調査)によると、日本の賃貸住宅の空室率は18.9%。
ざっくりいうと5戸のうち1戸は空室です。
しかし、これはすべての物件に均等に当てはまるわけではないですよね。
新築や駅前の好立地にある人気物件などは、空室はほとんどないでしょう。逆に、郊外で少し古くメンテナンスやリフォームに十分手を加えられていない物件などは半分以上空いている、なんてこともありえます。
選ばれる物件、選ばれない物件の二極化が進んでいる現状が感じられます。
厳しい賃貸市場ですが、魅力的な物件は入居者に選ばれ満室経営を継続しています。選ばれる物件とそうでない物件はなにが違うのでしょうか?
持ち家vs賃貸住宅 住宅に関する満足度
住宅の各要素に対する不満率
*参考:国土交通白書 2013>第I部>第2章>第2節>(3)住居に関する動向
住宅における各要素、広さや安全性、暮らしやすさや機能性などについての調査結果が上のグラフです。
持ち家に住んでいる人と、賃貸住宅に住んでいる人で比べると、どの要素についても軒並み賃貸住宅の不満度が高いことがわかります。
これは、実際その通りなのです。
賃貸住宅ストックの質は、床面積・耐震性・省エネルギー性能・バリアフリー対応といったこれらすべての面で、持ち家と比べると低い水準にとどまっています。
これは、賃貸住宅はあくまで持家を購入するまでの仮住まいで、物件の質をあまり重視してないから妥協できるだろう、その部分にコストをかけても評価されず、かけた費用が回収できないだろう、という前提があるからです。
コストの面から考えると、賃貸住宅に持ち家ほどの費用をかけることは現実的ではありません。出せる家賃には限界があります。
しかし、入居者は「賃貸住宅は仮住まいだから生活の質は低くてもいい」と思っているかというと、どうでしょうか。
出せる家賃の予算は5万円だけど、ここがこうだったら6万円まで頑張ってもいい、とか、こういう暮らしができるならあと5000円多く家賃を払ってもいい、というような入居者はいるのではないでしょうか。
賃貸だから妥協して暮らそうではなく、賃貸だけど自分らしく豊かに暮らしたい。というニーズは着実に増えてきているように感じます。
不動産が「負」動産と呼ばれるようになり、昔ほどの所有に対するステータスが感じられなくなることで、持ち家信仰が薄れてきています。
また、ライフスタイルの変化とともに住宅に求められるものも変わり、物件の質に対するニーズが高まってきています。
かけられる費用に限界がある賃貸住宅では、すべての項目で高い満足度を得ることは難しいかもしれませんが、ここが素晴らしい!というピンポイントであれば、高い満足度を得るための特色を持たせることは可能だと思います。
需要と供給のバランスは崩れています。
今は買い手市場で、入居者が物件を選びます。
コンパクトな世帯が多いので意見が食い違う家族も少なく、自分の意向で選択をすることができます。
「選ばれる」物件になっていなければ、ますます生き残れなくなっていくのです。
キーワードは「満足度」です。
払う家賃以上の「価値」を感じさせることができれば、行列のできる賃貸住宅にすることも可能ではないでしょうか。
進む持ち家の賃貸化と多様化するプレイヤー
建てては壊す住宅政策から、今あるストックを活かしていく循環型の住宅政策へと、遅まきながら変化しつつあります。
エコ住宅への補助金や利用しやすいリフォームローンの商品化、リバースモーゲージやリースバックなど、ストックを活かしていくための仕組みも徐々に整備されつつあります。
そして折からの個人投資家さんの賃貸経営ブームもあり、分譲マンションの一室(区分所有)や一戸建てなどのいわゆる「自宅用」の住宅も、賃貸住宅市場に多く見受けられるようになりました。
こういった側面からも、賃貸住宅市場に投入される物件の幅は広がりつつあることがうかがえます。
賃貸住宅経営と言えば、土地を持っている地主さんが、相続対策や節税のために遊休地の有効活用としてアパートを建てる、ということでした。または、資産家さんの資産運用手法のうちのひとつでした。
それはこれからも基本的にはそうなのですが、商品構成の多様化とともに、今後はさらに、サラリーマン大家さんや事業家さんの多角化戦略の一環としての不動産投資の増加が見込まれ、多様なプレイヤーが参入してくると思われます。
様々な視点をもったプレイヤーが増えれば、新しい商品や価値観が投入されます。
これまでの常識とは違うことも増えるでしょう。
流れをよくみて、変化に順応していかなくてはいけません。
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この記事を書いた人
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地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。
【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他
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