知っておいて損はない視点の話 ~ マクロとミクロ・2つの視点
賃貸経営は個人や家族単位で営んでいることが多く、関わる事業者も管理会社や仲介店の社員など、限定的になりがちです。
どうしても近くにいる協力者の助言に頼りがちになり、狭い範囲内でしか物事の判断ができなくなっていきます。
人というのはそもそも、全体像を把握する前に、自分の関心が高いこと、得意なこと、身近なことのような、思いつきやすいことを優先して考える習性があるそうです。
このような狭い範囲での小さな単位の視点を『ミクロ視点』と言います。
逆に、全体の概要を把握する大きな単位の視点を『マクロ視点』といいます。
「木を見て森を見ず」ということわざがあります。
「物事の細部に気を取られて、全体を見失うこと。」などと解されていますが、ミクロの視点はまさに木で、マクロの視点は森を指していると言えます。
どちらの視点が優で、どちらが劣か、という話ではありません。
そもそも人は、ミクロの視点で細かい部分をフォーカスしがちですが、それでは全体の道筋を誤ることもありますから、マクロの視点を忘れないように物事の全体感を捉えていきましょう、ということです。
ひとつの例で考えてみます
とある空室。
原状回復工事だけでは決まりそうにないので、入居促進のためにいつもより費用をかけてリフォームをすることにしました。
大家さんはかつて新築した時に、入居待ちが出るくらい引く手数多だった成功体験があり、その時のように水回りの設備も内装もすべて一新しました。
しかし、入居付けにとても苦労しました。
なぜでしょう。
客観的に見ると、理由は単純でした。
大家さんが新築した20数年前と比較すると、その地域にはたくさんの競合物件が建ち、最近は新築でも入居付けに苦労するケースも出る程、飽和状態でした。
また、費用を少しでも圧縮するため、キッチンはシステムキッチンではなく、新品の段落ちキッチンにしていたり、床材も新品のクッションフロアを張り替えただけ、和室は洋間に変更されていましたが、押入れは上下2段のままだったのです。
20数年前の新築仕様でした。要するに、今、選ばれる物件になっていませんでした。
しかし大家さんは、かつての成功体験もあり、ここまでお金をかけて全部新品に変えたのだから、当然すぐに入居者が見つかると思っていたので憤慨します。
管理会社は、これでいいのかな…と思いながらも、大家さんがそういうので、言われる通りきちんと仕事をしました。
大家さんも管理会社も、至極真面目に仕事をしたのに結果が出ませんでした。
そんな馬鹿な、と思われるでしょうか。でも、こんなことはびっくりするほどよくあります。
このケースの大家さんは「過去の成功体験」というミクロ視点に引っ張られてしまいました。
管理会社は、余計なことを言って機嫌を損ねてもらいたくない、自分の意見で決まらなかったら怖い、管理解約になったら困る、という「今の保身」が先立ちました。
これはミクロの視点です。
もしマクロの視点でものを見ていたとしたら、今こっぴどく怒られたとしても、しっかりと大家さんが間違っていることを伝えて、将来にわたって強固な信頼関係を築く、という判断もできたはずです。
マクロの視点で全体を俯瞰してから、ミクロの視点でひとつひとつを細かく見る
前述の大家さんはリフォームを行う前に、
- 競合物件を含めた市場の環境はどう変化しているのか
- 今の入居者ニーズはどうなっているか
- トレンドはどうなのか
- どのようなターゲットに訴求をすればいいのか
- いちばん費用対効果を高めるにはどうしたらいいか
など、まずはマクロの視点で全体感をつかんだ上でプランニングすることが必要だったかもしれません。
その上で、じゃあどんな間取りにしよう?どの設備に重点を置こう?クロスの色合いはどれにしよう?などと、ミクロの視点で細かい部分を詰めていく、というのが無駄の少ない思考方法です。
賃貸経営に影響のあるマクロ情報
日々忙しくしているとなかなか触れる機会もないですし、常に注視しておかなくてはいけないような情報ではないですが、賃貸経営を行っていく上では知っておいた方がいいマクロ情報というものもいくつかあります。
ひとつめは、顧客に関する情報。
賃貸住宅を借りてくれるお客さんは入居者ですから、物件のある地域の人口や世帯情報、居住者の年代、所得層、地域性などは大まかにでも把握しておくべきです。
▶ 参考:データで見る賃貸市場 ~ 顧客の動向/日本の人口と世帯数の推移、年代ピラミッド
ふたつめは、競合に関する情報。
競争相手になる賃貸住宅の動向は知っておいても損はありません。
▶ 参考:データで見る賃貸市場 ~ 競合の動向/日本の住宅ストックと空家数、新築供給の動向
3つめに、政策に関する情報です。
賃貸経営は、税金や金利など国の政策や方針の影響を受けやすい事業です。
どうして今、このような市場環境になっているのか、ひも解いていくと見えることが多くあります。
▶ 参考:俯瞰で見る賃貸市場 ~ 政策の動向/税制改正と金融政策、法律の整備
参考記事はどれも日本全体という大きな視点から見ていますが、もう少し細かく、県や市などの行政区単位で見てみると、もっとリアルになります。
しかし、賃貸経営で重要なのはこれらのマクロデータ自体やその正確性ではありません。
ざっくりとでも、大枠を把握して、今現在所有している物件の運営を円滑に行うためのヒントを得ることができればそれでOKです。
それらを踏まえたうえで、個別事情を加味した詳細な(ミクロな)プランニングを行っていくことが大事です。
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この記事を書いた人
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地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。
【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他
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