俯瞰で見る賃貸市場 ~ 政策の動向/税制改正と金融政策、法律の整備

賃貸経営は、所有している物件や入居者のニーズ、トレンドなどの目の前にある課題以外の事柄、大家さん側では全くコントロールできない政策の動きによって影響を受けることも多いです。

このようなその時々の政策の動向は有利に働くこともあればその逆もあります。

 

知らなくても問題にならないこともあるかもしれませんが、知っていれば有効利用できるかもしれませんし、知らないうちに被っていた不利益を回避できるかもしれません。

資本主義の社会では、知らない人よりも知っている人が得をすることが多いです。待っていても誰も教えてはくれませんので、自ら知りに行く動きが必要です。

 

賃貸経営に少なからず影響を与える税制の動き

不動産は、買う時も売る時も貸している時も、ただ持っているだけでも、税金がかかる資産です。

不動産が商材である賃貸経営は、税制改正の影響を受けやすい事業です。

 

税制はその時々の時勢を反映しながら毎年改正されます。

毎年年末頃になると税制改正大綱が発表され、来年の改正は賃貸経営に影響が大きいな、小さいな、と業界内では話題になります。新聞やメディアもにぎやかになりますので、目に触れることも多いと思います。

年が明けると国会に提出、審議、可決を経て、4月に改正税法が施行されることになります。

▶ 参考:毎年度の税制改正(財務省)

例えば、今年4月の税制改正は、タワーマンションの固定資産税強化や海外資産の課税強化など、相変わらず富裕者層に対する課税強化路線は続いているな、と感じましたが、それほどインパクトのある改正はない印象でした。

近頃で一番インパクトが大きかったのは2013年に施行されて、2015年に適用が始まった相続税の改正でした。

賃貸経営はもうだめだ、他に何かいい土地活用方法はないのか、とおっしゃっていた地主さん達がこぞって賃貸住宅を新築し始めました。税制の改正で時流が変わる、個人的にはそんなうねりを感じました。

 

税金の話は基本的にとっつきにくいものなので、100%自分で理解するのは難しいです。

プロの税理士さんでさえ、自分の得意分野以外の税制は詳しくないということはよくあります。

しかし、税理士さんが一般人と違うところは、どこをどう調べたら必要な情報にたどり着けるかを知っていることです。知らないことは調べればいい、もしくはよく知っている仲間に聞けばいいということです。

大家さんもすべての情報に精通している必要はありません。

賃貸経営に影響がありそうな部分にだけ、アンテナを張っておきましょう。

手っ取り早いのは業界紙です。ネット検索でもある程度の情報は集められます。その上でもっと詳細な情報が欲しければ、顧問税理士さんなどに確認すれば間違いがないと思います。

 

マイナス金利をはじめとする金融政策の動き

金融政策とは、金利の水準や市中に出回るお金の量を調整して、物価や通貨価値を安定させたり景気をよくするための政策です。

日本ではバブル崩壊以降、経済は低迷しつづけデフレ状態からなかなか脱却できません。その状況を克服して経済を上向きにするために、さまざまな金融緩和政策がとられています。

▶ 参考:金融政策の概要(日本銀行)

 

そこで大家さんが注目したいキーワードは、ゼロ金利を通り越した「マイナス金利」政策です。

通常、銀行に預金をすると利子がつきます。たくさん、長く預ければそれだけプラスになるのが普通です。しかしマイナス金利はその逆で、預ければ預けるほど利子が取られるという政策です。

誰も預金なんてしなくなるはずですが、現実、そうはなっていません。

なぜかというとこのマイナス金利は、日本銀行と各金融機関の間での話に留まっているからです。

我々が銀行に口座を開設してお金を預けたり引き出したりしているのと同じように、各金融機関も日本銀行に口座を持っています。その口座の金利がマイナスになっているのです。

預けておいても目減りするばかりとなれば、各金融機関は日銀にお金を眠らせておくよりも、企業に貸し出したり投資をするなどの運用をして稼いだ方がいい、という判断になります。

そうして市中にお金が出回るようにして、企業の設備投資や賃上げを促進して景気を上向きにさせよう、というのが日銀の狙いです。

 

金利が下がることで活況を呈したのは、住宅ローンの市場です。

住宅ローン金利は過去最低基準まで下がり、借り換えの申し込みが急増しましたが、借り換えでは受けても受けても銀行の稼ぎは減るばかりで収益は圧迫されます。

利ザヤが減って体力が落ちる銀行は、安定的でリスクの低い投資先を求めます。

そのひとつが現物資産である不動産です。

折からの不動産投資ブームで参入したいプレイヤーも多く、相続税の課税強化で地主層のアパート建築需要も喚起されている、あぶれたマネーの行先にはもってこいです。

この賃貸市場への投資が、「欲しい人がいるから作る」という需要に即したものであるならば何の問題もないと思うのですが、若者は減る、世帯も減る、所得は増えない、物価は上がらない、そのような市場環境の中で行われるものであるならば、投資家(大家さん)には情勢を注視したうえでの的確な判断が求められることになります。

すなわち、「借りられる」=その賃貸物件の事業性(収益性)が評価されている、ということではなく、その不動産自体の担保評価と、個人属性が評価基準の可能性が高いということです。

賃貸物件を「買う」ことが目的であればそれでいいのかもしれませんが、大家さんが行う賃貸経営は長く続く事業ですから、事業として成り立たなくては意味がないのです。

 

賃貸住宅向けの施策も含めた住宅政策の動き

日本の住宅政策の基本方針は「住生活基本法」に基づいて、住生活基本計画として策定されています。

▶ 参考:住生活基本計画(全国計画)(国土交通省)

この基本計画は5年おきに見直されることになっており、2016年に更新されたものが最新となっています。

▶ 参考:新たな住生活基本計画のポイント(国土交通省)

 

このような政策の情報は、文字が多くてこむずかしくめんどくさい印象が強いですし、賃貸経営に関係ないと思われる事項も多く含まれていて、決して面白い情報ではないかもしれません。

ですが、ふんわりとでも眺めてみると、だから今この事業に補助金がついてるのか~。とか、そういう理由で税制が改正されるのか~。とか、それでこの系統の事業者の勢いがあるのか~。などの、政策決定や産業促進の意図が見えてきます。

直近で賃貸経営に関連が深い政策としては、「住宅セーフティネット法」の閣議決定でしょうか。

これによって、家賃保証会社の存在感はますます高まりそうです。

住宅ストックの品質向上・IoT住宅なども気になります。ZEH基準賃貸やスマートハウスが少しずつ普及していくと、賃貸住宅の生活水準もグッと高まると思うのですが、こちらはまだまだ時間がかかるかもしれません。

 

明文化された民法(債権法)の改正

思いのほか時間がかかった印象ではありますが、120年ぶりの改正と大きなニュースになった民法改正案が国会で可決、2017年6月2日に公布されました。

民法は日本国民全員に少なからぬ影響を及ぼす法律ですから、関連するルールや法律の整備、国民への周知などが必要なため、施行日は公布の日から最長で3年後までに定められることになっています(要するに、2020年6月2日までには施行されます)。

▶ 参考:民法の一部を改正する法律案(法務省)

 

120年ぶりと言われるくらいですから、当然古い法律で時代の変化に適合していない部分や足りない部分がありました。

それらの不足部分は、これまで積み重ねられた判例や、業界ごとのガイドラインなどで補完してきたのですが、それがこの民法改正によって、法律にキチンと明文化されることになります。

賃貸経営に関連が深い項目もあります。

例えば、敷金の定義や返還ルールの明文化。

連帯保証人に対する極度額設定の義務化や賃借人による修繕権の行使、部屋の使用収益に難が出たときの賃料減額規定などは、事前に内容をしっかりと把握しておく必要があると思われます。

若干、あやふやな項目がありますので、賃貸借契約書に明示するなどの更新が必要になります。

まだもう少し時間はありますから、施行までに整理して準備しておきましょう。

▶ 参考:民法改正

 

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この記事を書いた人

管理人 いろは大家マニュアル Site administrator
地主系大家さんを中心に、賃貸経営に関わるさまざまなステークホルダーを支援する仕事をしています。
守備範囲は広く浅いです。専門的な深い部分はすぐに専門家に頼ります。偏りはありますが、近視眼的にはならないように心がけています。鳥の目、虫の目、魚の目で大家さんのお役に立つお仕事をしていきたい(と願っている)。

【保有資格】
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
相続支援コンサルタント
相続鑑定士
福祉住環境コーディネーター 他

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